下手なりに大清水伍長
いろいろと事情が重なって、久々の更新になってしまいました。
今回は、ちょっと変わったプラモデルの話です。
このキットは'94年にファインモールドから発売された「ワールドファイターコレクション No.3」で、日本陸軍の大清水一等兵といいます。-THE CHINA INCIDENT- IMPERIAL JAPANESE ARMY INFANTRYMANとあるので、昭和12年(1937)頃の歩兵の軍装をイメージしたものでしょう。
もはや箱絵の面影をとどめていませんが、デザインはドラゴンボールの鳥山明さんです。人物は巨顔・短躯にデフォルメされ、あまりの短足に銃剣が地面に届きそうですが(昇進しても軍刀は吊れまい)、首から下の装備・装具は正確な1/12スケールとなっています。
それにしても、太平洋戦争当時の兵器や軍装が主流のプラモデル界で、この立詰襟の昭五式軍装は唯一例かもしれません。昭和13年を境に日本の軍服は折襟に移行します。
鉄帽の下にはちゃんと略帽も被っていますが、鉄帽を背負うと飯盒が隠れてしまうので、後ろに庇を覗かせるだけにしました。
ところが仮組みで鉄帽を載せてみると、どうも顔の周りが引き締まりません。おそらく、強いアクセントになる顎紐がキットでは省略されているせいです。
無ければ作る。ついでに擬装網も被せてオリジナリティを出してみよう、というわけで顎紐と擬装網を作ることにしました。下手は下手なりに遊び方を考えないとね。
試しに追加部分をPhotoShopで消すと、こんな感じ。
こっちのほうが、すっきりして良かったかも……。
装備いろいろ
気を取り直して元の写真です。
擬装網の材料は、いわゆる「みかんネット」です。実物よりも網目が細かく見えるのは巨顔兵の大清水くんが超大鉄帽を被っているせいで、網自体は正寸の官給品と思われます(?)。
顎紐は上製本などに付く栞(細いリボン)で、折り返した網の目を使った兜結びになっています。
しかし、この顎紐の取り回しは神秘的なほど複雑ですね。九〇式鉄帽のユーザーだった父親(大正12年生まれ)に訊ねたところ、緊急時はもっと簡易な結び方をしていたとのこと。そりゃそうでしょう。
腰のバッグは被甲嚢(被甲=防毒面)、革の箱は各30発入りの弾薬盒です。
右腰には雑嚢と水筒、三八式小銃の濃緑の部分は遊底覆い(ダストカバー)で、これは黒染めの場合もあります。
帯革のバックルや制服のボタンは真鍮ですが、他の装備類には鉄(黒染め、黒塗装、赤塗装)やアルミの金具も使われたようです。
後ろの弾薬盒は60発入り。右の側面には油盒(オイラー)を収納します。
飯盒(mess tin)はどこの軍隊も似たようなのを使っていたようで、あえて日本風といえば蓋がフライパンにならない(柄が付いてない)ところかな?
地下足袋(じかたび)は今でも土木・建設の現場で使われているように、場面によっては革底などの編上靴より有利なのでしょう。下駄や草履が履物の主流だった時代、足袋のほうが運動しやすい人も多かったと思います。
実は、私が小学生の頃(昭和40年代前半の東京都下)でも運動会のときは跣足袋(はだしたび)という白足袋を履きました。
カンバスのカバーが付いた組み立て式スコップは円匙(えんぴ)と呼びます。匙の正しい音読みは「し」なので、誤読が軍隊で定着したのかも。工兵の大円匙に対して小円匙ともいいます。
背嚢の説明で「全面が牛毛皮で覆われていた」というのは、もっと古い型だと思います。この時期は背が当たる部分にだけ毛皮を使っていたはずなので、表面を削ってカーキ塗装にしました。
難しい彩色
困ったのは服地の色で、もともとカーキや茶褐色系の布は生地の質や光線によって発色が劇変するため、参考写真の色調もまちまちです。
塗料を混ぜ合わせても「これ」という色にならないので、作った色を並べたり重ね塗りして、全体の色合いをイメージに近づけてみました。おかげで、とんでもない厚化粧に……。
老眼+不器用な手先で肩章に天地1ミリ程度の星を描くのは無理と諦め、そこらへんの印刷物から★をトレースして切り貼ったのが、かなりオーバースケールな五稜星。厚みが目立つので伍長になってもらいました(下士官の星章は金属、兵は黄の布)。襟の徽章は付けないでおきます。
余談1:小銃負革
適当な材料が見つかれば、銃の負革(スリング)ぐらいは付けようと思います。日本の兵隊はあまり銃を肩掛けしないので、負革は文字通り「背に負う」ための装具といえそうです。
そのせいか日本の負革は個性的で、例えばベルトがバックル(管美錠)に縫い付けられていないものが数多くあり、革の染め色やサイズも多様です。
下の写真は、その辺りを調べていた頃に何本か原寸で自作したうちの一本です。英文資料にType30(三十年式)と書かれていた型を参考にして、少しだけType99(九九式短)の特徴を取り入れました。
作るのはそれほど難しくないので、複製品に納得できない方には自作をお勧めしたいところですが、良質の真鍮パーツは滅多に市販されていません。
作ってみて気づいたのは、バックルの付け根を縫わず、取り付け穴を複数空けておけば、通常のベルト穴と併せて負革の伸縮範囲を大幅に延ばせることです。
それが、銃を背中に回すための工夫なのか、革が擦り切れたときの対策だったのかは不明ですが、どちらにしても良いアイディアではないでしょうか。
(もっとも、縮めた状態で切れたら擦り切れ対策にはなりませんな。)
前方は、断面が「エ」の形をした真鍮ボタンで取り付けます。
折り返しが二重になっているのは上に書いた「九九短の特徴」で、ボタンが銃床に当たるのを防ぐ工夫です。負革が銃の側面に付く騎銃や短小銃には、たしかにボタンの接触痕と見られる深い傷が付いているものがあります。
このタイプの特長は、ボタンもバックルもベルトから完全に独立していて簡単に着脱できることでしょう。
これなら縫製工程が省略でき、革が消耗しても金具は兵の手許に残るので、軍はベルトだけ補充すればいいことになります。これらは私の勝手な推論ですけれど、銃が支給されたとき、負革のボタンだけ別途支給されたという話は聞いたことがあります。
余談2:銃口蓋
簡単にできるディテールアップとしては、銃口蓋(マズルキャップ)も考えられます。すべての小銃に付属していたのに映像作品で見かけないのは、揃える手間の割にインパクトがないからでしょうか。
まぁ、そういうふうに「映画では無かったことになっている物品」を数え上げたらキリがないわけですが……。
写真はごく初期型の鉄製で、二重筒の外側を回すと照星に引っ掛かって抜けなくなる仕組です。これは誤って発砲すると銃身を傷める場合があり、のちに真鍮製の同形式や板バネ式、ベークライト製に改められています。
しかし、薄い真鍮は変形しやすく、バネ式は紛失しやすいため、あまり有効な改良ともいえなかったようです。
外国の軍隊で硬質のマズルキャップを使い続けた例はないようなので、これこそ日本ユニークの小銃属品かもしれません。
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