« 秋葉原の「食」その3 ~暑い時こそ麻婆豆腐「万豚記」 | トップページ | 下手なりに大清水伍長 »

2007年8月16日 (木)

またギターが欲しくなっているお父さんに向けて

レビューするはずだったマシンのBIOSが飛んでしまったので、今回は予定を変えて無駄話の在庫から「ギターの話」をお送りすることにします。

秋葉原もイケベ楽器(リボレ秋葉原)LaOX MUSICVOXを目当てに来る人が増えたようですね。私は池袋や赤坂方面からアキバに来る場合、人混みを避けて丸の内線の淡路町で降りることが多く、これだと御茶ノ水の楽器屋街にも出やすくて便利です。お住まいによっては、都営線の小川町や千代田線の新御茶ノ水が相当するのではないでしょうか?

さてギターのことです。その昔「ギター」といえば金属弦の生ギターでエレクトリックギターは「エレキ」でしたが、最近はニーズが均衡して「アコギとエレキ」になっている由。変な呼び方で区別しなくても、両方「ギター」で困ることは滅多にないんですがね。
ともあれ本日のテーマはそのアコギ、精確にはフラットトップのアコースティックギターといいます。

私が中・高生時代を送った'70年代には、男子生徒の3分の1ぐらいがギターを持っていました。進学・就職と進むうちに仲間は見る見る減って、あの大量のYAMAHAやMorrisはどこへ消えたんだろうかと訝っていたら、近ごろまた楽器屋の店頭で、当時のギター小僧らしき方々を見かけるようになりました。
アコースティック系の音楽が人気を集める昨今、お父さん達にもギター熱が戻ってきたのか、所有暦が長いだけの私も買い方を訊ねられたりします。

ご同輩の多くは、あのころ高くて買えなかった輸入品が目当てらしく、せっかくなら当時の製品をと考えるようです。なんだかペーパードライバーが欧州車の中古に手を出すような感じですが、私も高3のころバイト代をはたいて初めてギブソンを買っときは音の違いなんて分かりませんでした(今も怪しい)。

ギターの値段は当時も今も、あまり変わりません。'70年代の製品も、よほど程度の良いものでなければ同型の現行品と同じくらいの価格で入手できるので、どちらを選ぶかは、その人の目的と価値観しだいです。

Title_edited1

以下、写真の2本を例に話を進めます。

買うと決めたら、カタログデータは押さえておきましょう。
スペックに詳しくなっても楽器の音は判りませんけれど、店で試奏させてもらうにも候補を絞る必要はあるし、まだ音を聴き分ける自信がなくても良いギターが欲しいと思っている人は多いと思います。そんな場合、ショップサイトなどにある製品情報は有力な手がかりを提供してくれます。

ただ、大事なのはスペック自体ではなく、メーカーがどんな効果を期待して、その用材や構造・寸法を選んだかでしょう。この相関関係も、音楽でよく使われる物理用語を理解することで大体は判ってきます。
(もちろん、実際にその音が出ているかどうかは聴いて判断するしかありませんが)

よく目にする音楽用語
たとえば、ある力で弦を弾いた直後の音量が大きいことをアタックが強いといい、同じ弾き方をしたときに、音は小さくても余韻が長い(一定の音量を長く持続している)ことはサステインが強いといいます。

シンセサイザーでは、その間の立下がり期(ディケイ)と、サステインが無音になるまでの減衰期(リリース)を加えて4期のパラメータを設定しますが、生ギターの場合は物理特性を人為的に操作するわけではないから、アタック(ディケイまで)とサステイン(リリースまで)の2ステージで評価すればいいということだと思います。

また、ギターの音色を表現するときによく使われる言葉に倍音構成があります。(ex. 豊かな倍音構成、伸びやかな倍音構成)
音叉でチューニングするとき、5弦の5フレットに触れて440HzのAを出すことはご存じでしょう(ハーモニクス=倍音)。これは開放弦のA(110Hz)を基音として4倍の波長を持つ正弦波です(2オクターブ上のAとして知覚される)。

実は5弦開放も110Hzだけ発振しているのではなく、その整数倍(220Hz, 330Hz, 440Hz…… )のAや、4分の5倍(C#)、2分の3倍(E)といった倍音成分が同時に鳴ることでギターらしい厚みのある音になっているのですが、はっきり耳に届くのは最も波長の長い110Hzというわけです。

当然ながら、どの弦のどのフレットの音にも倍音成分は含まれていて、それらがブリッジを介してボディに伝わり、木材が空気を振動させて聴こえた音が、そのギター固有のトーン、つまり倍音構成になります。ある周波数帯域を強調したり抑えたりするのは、オーディオセットのトーンコントロールも同じですね。

要するに、アコースティックギターは天然素材のイコライザーといえるかもしれません。ただし、このイコライザーはギター職人の一点調整で、オーナーの扱いが悪ければ消音器と化してしまう手ごわい器材でもあります。

トップの用材
最も音に影響するトップ(表板)の材はどちらもスプルース単板の柾目です。柾目材は音の伝播が均一で、丸太から切り出す際の効率が悪いため一般に高級とされています。板目でも音の良いギターはありますが、私の経験では気候や湿度に影響されやすく、米国で作られたギターはトップが割れる可能性もあります。

スプルース=唐檜は檜(ひのき)ではなく,松科で幹が真っすぐな蝦夷松の仲間(蝦夷松はヤマハのギター材として知られている)。ちなみに欧米のクリスマスツリーは唐檜で、樅(モミ)は日本の固有種だそうです。

スプルースの多くはアラスカ産のシトカ・スプルースです(森林保護の関係で産地は不定)。50~'60年代の一時期と近年のマーチンには北米産のアディロンダック・スプルースが使われて別格の扱いを受けていますが、ある産地の材が必ず名器を生むなんてことはあり得ないでしょう。神話の類ではないかと私は思っています。

Top28_45_edited1
D-28のトップには、年を経たニトロセルロース塗装に特有の細かいひび(ウェザーチェック)が出ている。この傷は「ポリウレタン塗装ではない」という反証で、中古市場ではプラス評価になるらしい
(塗料によって音が変わるはずもないので「傷に金を払うことはない」と感じた人は、たぶん健全です)


D-45(下)はマーチンより一回り(12年)も古い製品だが、退色もチェックも見られない。塗装面は乾燥が進んで脆くなっているため、強くピックを当てたりすると傷を作りやすい

ブレイシング
ギターの表板と裏板には、補強と音づくりを兼ねたブレイス材が縦横に貼られています。この骨材の中ほどを削る加工をスキャロップといい、無加工の時期も含めて製作年代ごとに特色がありますが、私には、それがどのように音色に影響するのかは判りません。

ここではブレーシングの一例を絵でご紹介しておきます。左はマーチンのトップ、右はギブソンのバック(スクウェアショルダー)に施されたものです。

Xbrace

サイドとバックの材
ギターの強度はサイド(周囲)とバック(背)で決まるため、非常に硬い材が使われます。写真のD-28はイースト・インディアン・ローズウッド、J-45はマホガニー製。日本語ではローズウッドが紫檀、マホガニーは栴檀(せんだん)で、琉球三線や琵琶の胴になります。
なお、ローズウッドの名は「バラの香り」に由来します。壇が香木に用いられること思うと、それも納得ですね。

マーチンのサイドとバックは、表板のアディロンダック・スプルースと共にハカランダが最上とされています(~'69および近年製)。ハカランダはブラジリアン・ローズウッドの別名で、一見して分かる明るい色が特徴です。これも、ハカランダだから必ず名器というわけではないので、プレミア価格の値打ちがあるかどうかはご自身の耳で決めてください。

Side
J-45のボディは薄く、弦高は低め、スケールもショートで、それぞれD-28とは逆の傾向を示している。ネックのマウント部はJ-45のほうが扁平で、弦高の低さと相まってハイポジションが弾きやすく感じる

ネックと指板
ネックはどちらもマホガニー製です。指板はD-28がエボニー(黒檀)でJ-45はローズウッド。フレットを打ち込む板だから、いちばん変形してほしくない材です。

マーチンのネックはナット付近で約44mmと太め。弦のテンションは強めで弦高も低くはないので、しっかり練習しないと綺麗な音を出せないかもしれません。
ギブソンのネックは細く、とくにこの年代のJ-45はナット幅が41㎜程度しかないので、指使いが窮屈と感じる人もいるようです。テンションの低さと相まって弦を押さえやすい反面、いい加減な弾き方ではチープな音しか出ない繊細さもあります。

Head_prof
Head_front
ナットとペグの間隔(1・6弦)はギブソンのほうがずっと広く、ヘッドの傾斜も浅い(上の写真)ため弦のテンションは強くない。こんなところも音の違いを生む要素になっているようだ

トラスロッド
スティール弦は張力が強いため、ネックにトラスロッドという調整用の長いボルト(アジャスタブルロッド)または四角い金属管(スクウェアロッド)を挿入して反りを防ぎます。

上の写真でJ-45のヘッド基部に見える2個の小さいビスは、トラスロッドを回す調整孔の蓋を留めるもの。D-28のほうはスクウェアロッド時代のモデルなので、ロッドを回して調整することはできません。もっとも、アジャスタブルロッドを採用している現行モデル(※)も、サウンドホール側からレンチを入れる方式のため調整孔はありません。

※スクウェアロッドのD-28を黒澤楽器がマーチンにオーダーして国内販売しているとか。ネックの断面形状なども異なるならともかく、もしロッドだけのために高いお金を払うのなら考え直したほうがいいかもしれません。アジャスタブルでも自分でネック調整する人は滅多にいないと思いますが……。

ヘッド・チューナー・ID
Head_back

チューナー(ペグ)はD-28がグローバーのロトマチック、J-45は3連のクルーソン。どちらも動作はスムースで遊びなどはありませんが、グローバーは小さなトルクで精密なチューニングができ、クルーソンは造りが軽いぶん調弦はやや不安定に感じます。ところが、このペグの軽さも音づくりに影響しているようで安易に交換もできません。

D-28の鏃(やじり)状の出っ張りは「ダイヤモンド・ボルート」といい、トラスロッドを用いなかった時代の名残りだそうですが、こうして見比べると強度アップにも貢献しているように思えます。

ギブソンのシリアルナンバーはヘッドの裏に打たれています。メーカーサイトで製造期間などをチェックできるので、中古楽器を買うときは事前に調べておくと安心です。

Serial_d28
マーチンのシリアルは型番とともにネック基部に刻印されている。ナンバーリングの規則も明解なのでオフィシャルサイトで楽に照合できる
http://www.mguitar.com/

Brandマーチンはブレイシングのフィニッシュも丁寧。焼印でブランドを表記している
ピックガードは縮みやすいと不評のアセテートファイバー。律儀にも貼った上から塗装されているため、剥がれると修理が大変らしい
急激な収縮はクラックの原因にもなる


Seal
ギブソンはもうすぐ消えそうなスタンプが押してあるだけ。なんとかJ-45 ADJと読める
ADJはアジャスタブルブリッジだから、同時期にコンベンショナルなブリッジのモデルも生産されていたのだろう

ブリッジとサドル

M

D-28はコンベンショナルな牛骨のサドル。マホガニーのブリッジは綺麗に面取りされ、ピンも真っすぐ入るので楽に弦の交換ができます。どこといって個性的に見えないのは、世の中のギターがマーチンのコピーだらけだからでしょう。

一方、この時期のJ-45は特徴的なアジャスタブルブリッジを採用しています。左右のネジでサドルの高さを調節できる、ということは少しでもネジを回すとサドルがブリッジから離れてしまうはずなのに、さほど音圧が落ちる気配はありません。ブリッジはローズウッドで、サドルはポースリン(磁器のこと)です。

G

賛否が分かれるアジャスタブルブリッジですが、ちょっとアーチドトップのようなジャキジャキした音が好きならお奨め。ブリッジの平面形状は上に出っ張っりのあるUpper bellyで、普通のギターとは天地が逆です。べつに構造上の意味はなさそうだから、マーチンと反対にしたかっただけかも。

機能とシェイプ、ケース
バックはどちらも2ピースで、D-28は接合部に寄せ木のデコレーションが入っているのでD-18と一目で見分けられます。

Martin

たいていのアコースティックギターがマーチンのDタイプを真似たシェイプを採用しているなか、ギブソンのラウンドショルダーはポピュラーかつ伝統的な製品として唯一例に近い独自形状といえます。
もっとも、肩が丸いほうがギター本来の形に近いことを考えると、やはり独創的なフラットトップギターの形状を編み出したのはマーチン、ってことになるんでしょうね。

Gibson

大きなものを日本語で「超弩級」といいますが、マーチンのDはそのドレッドノート(1906年進水の英戦艦)を意味します。ギブソンのJはジャンボで、やはりデカいという意味です。

マーチンのブルーケースに憧れた人もいるでしょう。外観だけでなく強度、気密性、内装、バックルの質感など、単なる付属品風のギブソンとはだいぶ違います。
もっとも、廃止されたのにはそれなりの理由もあるらしく、これにステータスを感じるのは日本のフォーク世代のお父さんだけなのも、どうやら事実です。

Case

補遺
ブルーケースの例に限らず、どうも私たちは一部のマーチンやギブソンに神話めいた価値を与えすぎているようです。ある時期に特定の材で作られた製品に高値が付いていたりするのは、希少価値こそあれ「良い音」を保証するものではありません。
古いギターは乾燥が進んでいるため一般に「よく鳴る」といわれますが、同年の同型にも当たり外れがあり、保管の仕方や、どう弾かれてきたかによっても音の違いが出ているはずです。
ところが、中古ギターの価格は製作年代と外見だけで決まるため、音については自分で確かめるか店を信用するしかなのが実際です。

それが不安なら、新品を買って自分で育てるのが賢明ともいえますね。
近ごろはマーチンやギブソンも、上に書いたような「神話」を踏まえた日本市場専用品を投入するように……、なったのが良いことか悪いことか知りませんが、そういう復刻品ならスペックもファンのツボを押さえているでしょうし、ある程度はパフォーマンスも保証されていると考えられます。

最後にギターの保管について私見を少し

湿度の問題

まず湿度管理です。アメリカのギター工場は湿度が40~50%に保たれているようなので、その辺りを目安にすればいいと思います。
そう言うと大変そうですが、この値は人が快適に過ごせる湿度と大きく違いません。生活空間では適当にエアコンが動いているはずだから、いつも人がいる部屋に置いておけば、そうそう酷い状態にはならないのではないでしょうか。私の湿度管理は35年来それだけです。

ただし、エアコンの風や日光が直に当たる場所に置くと、ギターは簡単に壊れることがあります。湿度が下がりすぎると、板より先に接着部がダメになるようです。

弾いたあと弦は緩めるのか。
まったく緩めない人、すべて緩める人、テンションの強い4~6弦だけ緩める人もいて定説はないようです。緩める派の根拠は実際にネックが反ることがあるからですが、実は緩めても反る場合はあります。

難しいのは緩めない派の根拠で、たとえばマーチンは、弦のテンションを計算に入れてトラスロッドを逆反り(背のほうに曲がる)気味に調整しているといいます。さらに、ミディアムゲージの弦を張ると僅かに順反りとなって、適切な弦高になるようにサドルの高さも決められているとか(未確認)。だとしたら弦を緩めないほうがネックのため、ということになりますね。

私の場合、ギブソンは壊した経験があるので、精神衛生のために3・5・6弦を緩めることにしています。上3本を緩めると毎回のチューニングが面倒なのと、どうも4弦は切れやすいような気がするからです。

マーチンは10年ほどカワセ楽器のライトゲージを張りっぱなしですが(もちろん弦は交換はしている)、曲がらないどころかチューニングもほとんど狂いません。
これはマーチンの強度を信頼しているからというよりは、曲がったら直せばいいと思っているからです。注意しても曲がるときは曲がるし、たいていの故障は修理できるので、いろいろ考えるよりガンガン弾いたほうが楽器のためだと思うわけです。

|

文化・芸術」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

趣味」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/215147/16133417

この記事へのトラックバック一覧です: またギターが欲しくなっているお父さんに向けて:

» 月に最悪記録と [たな]
海兵隊 多面 昨日と今日と [続きを読む]

受信: 2007年8月28日 (火) 12:23

» イケベ楽器のバーゲン [イケベ楽器 ]
イケベ楽器のバーゲンは正月セールや1DAYバーゲンなどを毎年のように 開催しています。お正月セールの時には5万円のギターが2万円という格安で 販売されていました。その為、イケベ楽器店の前には200人ほどの行列が できていたそうです。1本ものの目玉狙いの人たちは2~3日前からイケベ楽器店 の前で泊まり込みで並んでいたそうです。最低でも前日からならんでおかないと 買うことができないみたいです。寒い中みなさんがんばりますよね。 イケベ楽器店は特にそうみたいなのですが、東京の楽器店の正月バーゲンには 全国各... [続きを読む]

受信: 2007年8月30日 (木) 10:46

コメント

コメントを書く