九八式射撃照準器(その1)
今回はアキバと直接には関係ないんですが(じゃ、ただのノイズ?)、メカ好きの人やコンバット系のフライトシミュレータが好きな人には興味を持っていただけそうな話です。
ほかの媒体に書いた記事がプロジェクトの延期で眠っていたので、古くならないうちに一部でも公開しておこうかとショートバージョンにまとめたものです。
それでも長いので、前・後編に分けてアップします。
何の写真だか判りますか? 旧海軍の戦闘機用照準器の模型で「九八式射撃照準器(1/3スケール)」といいます。制作・販売元は美濃加茂市のマツ・モデルデザイン。もともと同社は照準器の1/1シリーズで定評があり、博物館の復元機にも何件か装備されています。
原寸大のほうが10万5000円で1/3スケールは8300円。私が買ったときは7800円でしたが、今年の初め頃に価格が改定されたようです。値上げより怖いのは生産終了ですから、欲しい人はすぐ買っておきましょう。
名前の不思議
こういうものの総称が「OPL照準器」だと思っていた人はいませんか? その件は今回の主題に関係するので後ほど触れるとして、名称については「射撃照準器か射爆照準器か」も資料によってバラつきがあります。
航空照準器には射撃用と爆撃用があり、レティクル(照準目盛)のパターンを交換することで両方に対応できたものを射爆照準器と呼んだようです。射撃用のレティクルは同心円で、爆撃用は方眼です。九八式の場合は射撃用を一型、急降下爆撃(艦爆)用を二型として区別したという記述もあります。
しかし、どちらも「射爆」では一型・二型といわれても混乱は避けられませんよね。
一説では、それぞれの制式名は九八式一型射撃照準器・同ニ型爆撃照準器で、それらの総称が九八式射爆照準器だといいます。う~ん、だったら一型・二型は付けないほうがいいでしょう……。真相はともかく、模型の商品名を「射撃照準器」としているのは適切だと思います。
さて、上に書いたOPL照準器です。私が子供の頃に読んだ零戦の本にも、そう書かれていました。なぜOPLなのか、そもそもOPLとは何なのか? その答えは、九八式射爆照準器(以下九八式照準器)誕生の前史にありました。
日本初の光像式照準器
九八式は国産品として最も古い光像式照準器です。光像式とは反射ガラスに平行光で照準環を映し出す方式で、それまでの眼鏡式(ライフルスコープのような筒型:鏡筒式、望遠照準器ともいう)と比べて搭乗員に、
・窮屈な姿勢を強いない
・広い視界を提供できる
・急激に気温が変化しても曇りを生じない
といった特長があり、欧米では1930年代の前半から新鋭機への採用が進められました。眼鏡式より優れた点は命中精度というより、見張り(目視警戒)に余裕ができ、計器類も見やすくなることだったようです。
ただし、眼鏡式といっても望遠鏡のように顔を近づけて片目で覗き込むのではなく、目は接眼レンズから40cmほど離し、左目は警戒のために開いていたとのこと。
ざっと各部を説明します。各部の名称は筆者が便宜的に付けたもので、旧軍の呼称と異なる場合もあります。なお、写真は照準器を斜め前方から見たところです。
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①反射ガラス
下から光を当てて照準環を映すガラス。素通しガラスだが、45度傾斜しているためハーフミラーのように機能する
②照星
後述の予備照門と一対で使用。通常は予備照門と連動して搭乗員の左側に倒れている
③緩衝パッド
顔面保護用の緩衝材。照準器は搭乗員の目の前にあるので、不意の荷重で顔面を強打する虞れがあった
④防眩フィルター
ネオファンガラスといい酸化ネオジミウムを添加して作る。黄色の光線を約90%カットし、赤・緑・青はほぼ透過するので、明るさを保持して眩しさを除去できる。前方へ約90度まで倒すことができる
⑤予備照門
ランプが切れたときに使う機械式照門。照門が前方、照星が手前になっている(小銃の逆)。球切れについては「よく切れた」「使用中に切れたことはない」と証言が分かれる。昔の電球はすぐ切れたので、部隊によっては耐用時間前に交換していたのかも
九八式は皇紀2598年式=昭和13年(1938)の制式採用ですが、開発指示は昭和12年なので、設計・試作から審査まで1年で完了したことになります。
ただし、日本で光像式照準器の研究が始まったのは昭和7年(1932)らしく、そこから起算すると第一号製品が誕生するまでに6年は経過しています。そして昭和7年当時、初めて日本の関係者が目にした光像式照準器がOPL社(フランス)の製品だったようです。
OPLの落選とReviの採用
OPL製品は日本海軍がライセンス生産をねらって試験的に輸入したもので、このときから「OPL=光像式」の誤解が始まったものと想像できます。
ところが審査の結果は不採用で、理由は「国産化の見通しが立たなかった」とも「OPLが不成績だった」ともいわれています。
ここに実物らしきもの(OPL Type : RX. 393)の写真がありますが、防眩フィルターがなく日除けの笠が載っているところを見ると、鮮明度も光量も足りなかったのではないかと思われます。この笠のせいで、本国では手提げランプ(lanterne)、ギリシャ神殿(temple grec)などと渾名されていたようで……。
もっとも、昭和7年は次期主力戦闘機(七試艦戦)も性能不充分で開発が見送られているので、新型照準器も不要不急と判断されたのかもしれません。
日本の航空技術が欧米に近づいたといえるのは、2年後の昭和9年(1934)から12年にかけて九六艦戦、九七単戦が登場した頃でしょう。海軍の零戦、陸軍の一式戦に試作指示が出されたのも昭和12年です。
零戦の開発と並行して九八式照準器の開発・採用が急速に進められたのは、零戦が日本で初めて20mm機銃を装備したことと深い関係がありそうです。
機体が世界水準になってもエンジンや武装、艤装は終戦まで二級品だったといわれるとおり、九八式照準器もドイツのRevi 2a(あるいは2b)と、ほぼ同じ形をしています。
この件では「ドイツから試験導入したHe112(ハインケル)の照準器を急いでコピーした」といった記述をよく目にしますが、私はむしろ零戦が、He112の「機首7.92mm×2、翼内20mm×2」という変則的な機銃レイアウトに倣った結果(零戦は機首7.7mm)、トータルのシステムとして照準器も最初からReviに決めていたと考えるほうが自然な気がします。
霞ヶ浦航空隊で保管していたというHe112が上記の機銃レイアウトだったかどうか確証はありませんが、零戦の20mm(九九式一号銃)はHe112が採用していたスイス製のエリコンFFをライセンス生産したものなので、弾道特性が類似していて当然です。
水色っぽく写っているのが電灯のスイッチで、明るさはパッド下のダイアルで調節する。白いラベルはランプ交換の手順を説明しているようだが、文字が小さすぎて読み取れない
OPLの意味、Reviの意味
先述のとおりOPLはスランスの光学機器メーカーで、戦後はレンジファインダー式カメラ「フォカ」で世界に知られるようになります。OPLの意味はOptique et Precision de Levallois。いわば「ルバロワ光学精密」。ルバロワはOPL創業の地名です。
ReviはReflexvisier(反射式照準器)の略で、要は光像式照準器のこと。ReviシリーズはAskaniaやOigeeが生産していました。ちなみに九八式のほうは富岡光学機械製造所(のちにヤシカ系列→京セラオプテック)や千代田光学精工(ミノルタの前身)ほか複数社が納入していたそうで、今回の1/3模型は富岡製がモデルになっています。
フランスでは光像式照準器を「Collimateur」といいます。英語のコリメーター(点光源の光線を平行光に変換する光学系)に相当し、まさに光像式照準器の原理を言い表しています。
この英語をアメリカ人に言っても、カメラマニアしか反応しないでしょう。アメリカでは、ものが拳銃用だろうと航空機用だろうと照準器はGunsight。さすがカウボーイの国!
しかし、なんでもかんでも「ガンサイト」でよく話が通じますよね。
後編では、浅学を顧みず光像式照準器のハードウェアに触れてみたいと思います。
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