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2007年7月11日 (水)

九八式射撃照準器(その2)

九八式射撃照準器の後編です。
光像式照準器の仕組や調整法を知りたくて、やさしい文献を探したのですが、まとまったものが見当たりません。仕方がないのでWebや書籍の記述を手掛かりに、とつおいつ自分でイメージを構成してみることにしました。
なにぶん自然科学の素養ゼロ、光学機材の知識ゼロの人間の脳内スクリーンに結ばれる像ですから、とんでもない勘違いがあるかもしれません。

Target

照準の原理
どこかのWebサイトで九八式照準器の評価を読んでいたら「ガラス板に照準環を映すだけの幼稚なもの」とあり、そんなはずはなかろうと思ったのが、これを書いたきっかけです。光像環が「ただの影絵」なら鉄の照門と変わらないので、わざわざ光の輪を映すまでもありません。それに光の輪だけでは照星がないライフルと同じで、そもそも照準できないでしょう。

Sight_fig_a_1 ←クリックで図を拡大

これは玩具のエアガンでも撃ってみればすぐ判ることですが、エアガンのないご家庭も多いでしょうから小銃射撃の様子を絵にしてみました。小銃射撃では、こんなふうに照準をつけます。

標的が銃身の延長線上にあり銃弾がどこまでも直進するなら、弾は必ず標的に命中します。そのとき、標的・照星・照門の3点は一線に並んでいるはずです。実際の銃弾は重力の影響で落下するため、銃身は照準線に対して僅かに上向きとなり、その角度は標的が遠いほど大きくなります。

上の理屈は空中でも同じですから、現に九八式の予備照門も照星と一体になっています(下の写真の⑤と②)。ライフルと逆で照門が前方にあるのは、◎を目盛として距離や的速を測るためでしょう。あまり実用性がなかったのか、後の改良型では照門が手前になり、小さな○型に変わっています。

Ld_f2_2
クリックで画像を拡大

光像式とはどういうものか
では、なぜ光像式照準器の照準環は単体で機能するのか。
天文関係のサイトを眺めていたら「光像式ファインダー」というものに行き当たりました。望遠鏡とセットで星を捉えるものらしく、形状も部品構成も光像式照準器によく似ています。

その仕組を照準器に当てはめてみたのが次の図です。Sight_fig_b_1

←クリックで図を拡大

照準環は電球の明かりでガラスに投射されるので「影絵」に違いありませんが、肝心なのは凸レンズの働きです。

凸レンズといえば小学校で習った「虫眼鏡で紙を燃やす実験」です(と言ってる時点で私の科学知識の限界が知れますが)。
太陽などの天体から届く光は、拡がらずに直進する「平行光」です。虫眼鏡(凸レンズ)には平行光を一点に集める働きがあるため、レンズの焦点距離に置いた黒い紙が発火する、というのが実験のテーマだったと思います。

この「並行光→虫眼鏡→レンズの焦点」のルートを逆にして、凸レンズの焦点距離に点光源を置けば「光はレンズを通って平行光に変換される」と推定できます。点光源の光は放射状に出るので拡散光といい、そのような光源の代表が、いわゆる白熱電球です。
これを図に当てはめると「白熱電球の拡散光は照準環のパターンを透過し、凸レンズの働きで"平行光で描かれた照準環"に変換されて反射ガラスに映し出される」となります。

並行光の像(照準環)はいわば人工の太陽で、本物の天体と同様、人間の目には無限遠にあるものとして知覚されます。
列車の窓から外を見ると遠くの景色ほどゆっくりと過ぎ去り、月は列車と一緒に走っているように見えますよね。月までの距離は有限ですが(40万km程度)、ここでいう無限遠は「列車で移動しても目標物と目との角度が変わらないほど遠い距離」と解釈すればよさそうです。

人工の無限遠にある照準環も搭乗員の視線に追従してくれるため、眼鏡式のように首を固定して覗かなくても、操縦姿勢のままで照準できるのだろうと思います。
このように各種の光源から平行光を作り出す装置がコリメーター(collimator)で、身近なところでは写真レンズの焦点距離調整などに使われています。フランス語で光像式照準器をCollimateurと呼ぶことは前編で紹介しました。

Light
スイッチを入れると照準環が……というのは嘘で「こんな感じかな」とCGで描いてみただけ。1/3模型には電気系が入っていないので何も映りません
筆者が
ビデオで見た実際の光像環もこの程度に鮮明で、敵機の大きさが判っていれば、同心円を目盛として標的との距離、標的の針路・速度なども読み取ることができたとのこと

照準規正とは
要するに、光像式照準器の照準環は「操縦席の真正面にいつも月が出ているようなもの」といえそうです。で、その「月の中心に銃口を向けておき、月の前に敵機を捉えるように機動して撃てば弾は必ず命中する」ということです。小銃に置き換えれば、銃身が標的まで延びているような感じですね。

実際の射撃がそんなに甘くないことは、言うまでもありません。敵機も自機も500km/h以上で動き回っているうえ、有効射程は150~300m程度といわれます。実戦では100m以内に迫らないと命中するものではないという談話もありました。
発射速度が毎分500~900発とはいえ、携行できる弾数は7.7ミリで700発、20ミリは100発以下なので、しっかり狙って数発ずつ撃たないと瞬く間に残弾ゼロとなります。

そこで重要になるのが照準の精度です。機銃の弾道は抛物線を描くだけでなく、照準線よりも下方・外側から発射されるため、厳密には1点でしか照準線と交差しません。
照準線と射線の関係は、こんな感じになります。
Sight_fig_c

← クリックで図を拡大

2本の青い線は照準線を真上と真横から見たところ。赤い矢印は1梃の機銃の弾道を、やはり上と横から見たものです。

もし敵機が青い線上にいれば照準環の中心に見えるはずですが、前述のとおり弾道(赤い矢印)は1度しか照準線と交差しないので、射手はその交点に弾着するように敵機と自機の未来位置を予測して射撃しなければなりません。

敵機との相対距離は照準環に対する標的の大きさで判断します。仮に、敵機の全幅(両翼端を結ぶ線)が照準環の最大径に一致したら100m、内側の同心円なら300mといった要領です。
全幅がほぼ11~13mの単座戦闘機はいいとして、大型機は陸攻クラスで25m、4発機は30m、B-29にいたっては40mもあるので、即座に距離を把握するのは難しかったでしょう。

弾道と照準線を交差させる距離は射程内で任意に決められます。近いほど当てやすいとはいえ、100mに調整したら敵機に100mまで接近しなければならないわけで、そういう人は、腕と度胸と人間離れした動体視力を持っていたとしか考えられません。

図では赤い矢印が1本ですが、実際の戦闘機には機銃が複数(零戦は4~5門)装備されていました。従って、機銃の整備では複数の赤い矢印が照準線(青い線)と交わる点を一致させ、その交点が照準環の中心にくるように、すべての機銃の向きを調整する必要があります。

そういう作業を「照準規正」といい、全機銃の弾道が照準環の中心に集まる距離が、上に書いた300mとか100mという調定(集弾)距離=射撃距離になるわけです。
機銃は機首や翼内に離れて装備され、口径や型式によって弾道特性も異なるため、弾着を1点に集めるには銃ごとの精密な調整が求められます。

と、いろいろ書いてきましたが……。

ものの本によると、大小口径を組み合わせた機銃レイアウトの場合、弾着は必ずしも1点にまとめるのではなく、装弾数が多く直進性の優れた銃を遠距離に調整し、その弾道の中ほどに大口径銃の弾着を設定するなど、ずいぶん複雑な照準規正をしていたケースもあったようです。

そうやって、小口径の機銃に曳痕弾を混ぜて撃てば、敵機との間にレーザー光線の糸を引いたように見えるのかな? とか想像してしまいます。
とはいえ、スタンダードな照準規正については、概ね先に書いたようなイメージで間違いはないと思います。

光像式照準器は、第二次大戦終盤にかけてダイヤルで距離を設定できるものや、ジャイロスコープで見越し射撃をサポートするものに進化していきますが、残念ながら日本は、主に生産技術や資材の限界から画期的な改良ができないまま終戦を迎えました。
もっとも、当時のパイロットの実戦談を読むと、小銃並みの間合いで撃ち合っていたらしい昔の空中戦で、機械式の照準補正がどれだけ有効に機能したかは疑問に思えます。

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